鈴木裕人

マンション管理士・一級建築士 鈴木裕人
マンションサポート福島

http://ms-fks.org/


マンションサポート福島は、マンション管理士による独立系の管理組合コンサルティング事務所であり、かつ、マンションの大規模修繕工事・改修工事に特化した建築設計事務所です。

1976年福島県福島市生まれ。福島県立福島高等学校・東北大学工学部建築学科を経て、地方公共団体(福島市役所)に技術職員として入庁。多数の公共工事の設計・積算、契約管理・工事監理、建築行政に従事した後、2007年マンションサポート福島を設立。自主管理マンション・リゾートマンション・委託管理マンション等、多くのマンション管理組合を支援しています。

マンション管理に関する事なら、どんなことでもご相談ください。


地方都市のマンション管理組合の身近な専門家として

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◆はじめに

2007年に独立し、福島県内のマンション管理組合を主な顧客とするマンション管理士・一級建築士事務所「マンションサポート福島」を設立しました。顧客をマンション管理組合に絞った事務所は、大都市圏ではない地方都市では珍しいのではないでしょうか。
 
 前職は公務員(建築技師)でした。公共建築物の設計や工事監理を担当したほか、工事の際の契約手法、入札や見積もり審査といった業務を多く担当してきました。管理組合の運営における予算主義、理事会・集会における会議資料の重要性といった特徴は行政庁と似ており、前職における経験が活かされていると感じています。
 
当事務所の設立以来、自主管理マンション・委託管理マンション双方の管理組合から、顧問就任・建物の劣化調査・長期修繕計画の策定・大規模修繕工事の設 計監理・管理業者の選定(変更)支援等々の依頼を受けて参りましたが、マンション管理士ならではの業務においても、建築士としての視点を踏まえた提案を行っているところに当事務所の特徴があると考えています。
 
ここで、通常であれば当職が行った業務の中からいくつか特徴的な事例をご紹介するところですが、被災地のマンション管理士として執筆の機会を頂きましたことから、2011年3月の東日本大震災を被災した3つの管理組合の取組みと、そこでの当職の支援内容についてご紹介したいと思います。

◆大災害後の管理組合の取り組みと当職の支援内容

事例1

A管理組合の事例:福島県郡山市、SRC造12階建、52戸、築14年。証明は半壊。地震保険は半損。

 
IMG_2082A管理組合では、被災直後に管理委託先の管理会社が建物の応急点検を行い、「主要構造部には大きな損傷なし」と建物の安全性を居住者に向けて案内しました。しかし、1階ピロティの一部の柱には曲げひび割れが発生していて、バルコニー側に面している非耐力壁である雑壁の多くが大きくX字に裂け隙間風が吹き込み、被害がひどい住戸では亀裂の隙間から向こう側が見えるほどでした。
 
管理組合は建物の補修工事を早急に進めたい考えを持っていましたが、委託先の管理会社も管理組合と同様に被災し混乱していたため、管理組合の補修工事の実施に向けた支援は十分なものではなかったと聞きます。そこで、以前より建築基準法の定期報告や屋上防水改修工事の設計監理等の委託を受けていた当事務所へ、地震発生後の早い段階に相談が寄せられました。
 
ガソリン不足・公共交通機関もストップしている状況ではありましたが、4月上旬に現地調査を行い、居住者向けの説明会などに出席し、被害状況の解説や今後の課題(どのように補修していくかの意思決定、工事中に予想される雑壁の補修やサッシ交換の際の支障等)について、意見交換が円滑に進められるよう支援しました。
 
これらを経て、5月に臨時総会を開催し、補修のための基本計画(施工候補者の選定方法・アドバイザーの選定・予定工期等)を決議し、6月より補修工事のための実施計画案の策定(施工候補者選定・躯体補修と外装改修を中心とした工事内容の検討・工事金額の精査・工事監理者等)を理事会・施工候補者(建設業者)・アドバイザー(当職)の3者で行いました。
 
8月に再度臨時総会を開催してこの補修工事の実施計画案の承認を得て、9月着工1月末竣工と概ね順調に計画が進みました。特に意見交換で多数あった「寒くなる前に壁の亀裂を直して欲しい、お正月を迎える前に外部足場を外して欲しい」といったご要望に沿う工事を進められたことに、一定の成果を感じたところです。

事例2

B管理組合の事例:福島県郡山市、SRC造13階建、62戸、築15年。罹災証明は一部損壊、後に半壊に変更。地震保険は一部損。

 

IMG_2209B管理組合は、一昨年に大規模修繕工事を実施した直後に地震で被災しました。B管理組合では3月以降、「建物に被害が生じた原因の議論(建物の瑕疵を疑う議論)」「建物の耐震性能の低下についての調査の要否の議論」「補修工事か補強工事かの議論」と、各議論に区分所有者の意見が入り乱れ、具体的な復旧の準備に移れない状況が3ヶ月程度続いていました。
 
6月に入ってから当事務所に相談が寄せられ、管理組合の理事会や説明会等に複数回出席し、管理組合が抱える上記の議論の整理や、補修工事に向けた計画の進め方、修繕積立金が不足することによる資金計画等を複数提案するなど、管理組合の協議に参画し助言指導を行いました。
 
この間、福島県内の建設業界では、工事の需要の激増に伴い、「競争入札への参加辞退」「相見積もり参加辞退」「特命(入札によらず一社への随意契約)でなければ平成23年中の着工は無理」という建設業者ばかりとなり、非常に逼迫した状況になりました。このマンションでも前述のA管理組合と同様に、雑壁の割裂箇所からの隙間風や玄関ドアの開閉の不具合等が生じており、建物の補修が急がれる状況であることから、特命による工事の計画を念頭に置くことで補修計画を検討しました。
 
B管理組合では、7月に当事務所に実施計画の監修業務を委託し、7~9月に実施計画案の立案を行い、9月の臨時総会等を経てなんとか10月着工にこぎつけ、2月中の補修工事の竣工予定で目下工事が進んでいます。
本計画の中でB管理組合に大きく評価されたことは、外部足場を架設して建物の被害状況がさらに明らかになった際に、管理組合に罹災証明の再調査を依頼することを助言した結果、当初の一部損壊から半壊の認定となり、居住者が見舞金等を受けられることとなり大きな助力となったことが挙げられます。

事例3

C管理組合の事例:福島県福島市、SRC造11階建、64戸、築16年。罹災証明は半壊。地震保険は未加入。

 
C管理組合は、当職が3年前から顧問業務をしている管理組合です。地震発生の前年に大規模修繕工事を実施しており、その際に当職は大規模修繕工事の修繕委員会への参画、長期修繕計画上の大規模修繕工事内容の精査、設計監理者・施工者選定の支援等を行いました。C管理組合では、過年度に行った大規模修繕工事により工事の計画立案に慣れていたことから、5月の通常総会にスムーズに補修工事の実施計画を総会で決議することができました。この事業の中でも、月を追うごとに変化する見舞金や応急修理制度の取り扱い等の行政の支援制度の案内や、完全に売り手市場となった建設業者を取り巻く環境に関する情報共有と、管理組合との連絡調整の毎日でした。

◆おわりに

常々思いますが、地方都市にあるマンション管理組合は地域の外部専門家の絶対数が少ないことから、大都市圏のマンション管理組合と同じようには専門家にアクセスしにくい実情があります。しかし、地方都市にいるマンション管理士等の専門家は、その現状を打破するという気概を持って日々の研鑽を行い、様々なご要望にいつでもお応えできる体制を維持していなければならないと考えております。


耐震補強工事の技術「既存梁部材の外側補強工法」

耐震補強工事の技術「既存梁部材の外側補強工法」のご紹介です。

マンションにおける耐震補強にはクリアすべき様々な課題がありますが、
主なハードルの一つに、居住者が住みながらでの工事を求められることが挙げられます。従来の例として、梁をU字型(室内側・梁底面・屋外側の3面)で補強する工事では、梁の室内側の施工時には居住者の仮住まい(一時的な引越)が必要になる場合も想定されます。

この「既存梁部材の外側補強工法」は、建物の鉄筋コンクリートの梁に対する、建物外側のみからの補強であることが大きな特徴で、工事の際に住戸内での作業を必要としないというメリットがあります。

また、その他にも、既存梁と補強部は「あと施工アンカー」のみで一体化するため、接続界面に目荒らしを行う必要がなく、施工時の振動・騒音・粉塵の発生が低減されるという利点があり、また、工期の短縮やコストダウンの効果も見込めます。

「耐震診断はしたものの、耐震補強は現実的じゃない」というマンションは少なくないと考えますが、このような技術革新によって耐震改修が促進されることを期待します。

http://www.tobishima.co.jp/news/news140331.html